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台高:往古川真砂谷〜堂倉谷石楠花谷

2001年5月3日(木) 〜 2001年5月6日(日)
L越山、長南、戸ヶ崎、松之舎、古川原


 5月3日朝、夜行バスの尾鷲停留所で下車、はす向かいのコンビニで朝飯を調達して乗り込んだタクシーの中で目指す谷の不思議な名前の由来を考えている。
川をゴウと訓じる紀伊半島の谷の通例として、往古=オウゴウ、真砂=マサゴウ、西隣の銚子川もあるいはチョウゴウなのかもしれない。ではマサゴウの"マサ"とはなにか。植物名が由来とすれば、ゴッホの糸杉のように燃え上がるような樹勢で岩壁から張り出す"イブキ"のーの谷、優美な花を咲かせながらもその群落に分け入る登山者を苦しめる"シャクナゲ"の谷、あるいは天を摩する"オオスギ"の谷なら迫力のある景色のイメージが眼前にありありと広がるのだが、庭木の広葉低木"マサキ"の川ではなんとも絵にならない。
往古川沿いの道に入ると車窓からかなたの右に小木森、左に八町とおぼしき巨瀑が勢いよく流れを吹き出しているが見えてきた。とてつもない眺めだがその古語"マサナシ"を由来とするのは少々無理があるだろう。やがて大杉谷流域へ越える林道が高度を稼ぐために右にヘアピンカーブするところで下車、つまらない詮索はひとまず措き、谷に降りた。

 尾鷲の昨日は終日雨で累計100mmの降水があった由で往古・真砂出合付近も水流は強いがほとんど濁りは感じられない。
いきなり谷に転がる岩がどれも大きく、やがて二条7mのゴーロ滝が行く手を阻む。右岸を巻けるところだが長南チーフ・戸ヶ崎サブチーフリーダー両氏は果敢に左条を直登、この後も非力な今山行リーダーを尻目に八面六臂でパーティーを牽引する。
ほどなく最初の右岸支流を過ぎると取り付き不能な15mの直瀑で、右岸を小さく巻きトラバースを試みるが壁に阻まれる。立木伝いにザイルを使って斜め上流に向かって下降してゆくことも出来そうだがここからしばらくゴルジュで今日の水勢では苦戦しそう。初日の荷物も重いので結局戻り先ほどの支流を少し登りヒルの待ち受ける右のガレ斜面を急いで登り、テープにしたがって壁の弱点をつくトリッキーなルートをたどり次の支流から谷に降りるものの、また15m滝に阻まれ再び右岸から巻き越す。
まだゴルジュは続きその中にゴーロ滝がかかる。おおむね大岩と右岸のコンタクトラインを這い上がり越えてゆく。平水ならさほど難儀しないと思うが今日は流れがきつく、ゴーロ滝の中で小生はアマゴのエサになりかかり戸ヶ崎さんに助けられる。大岩でできた5m滝を越えると下流部ゴルジュ帯は終わり、よい泊場を見つけて躊躇なく初日の荷を解いた。

 4日も薄い雲間から青空がのぞく穏やかな天候。水もだいぶ引いた。再び岩が谷を埋める様になり奥坊主と云われる岩峰が右岸上方に見えるようになると全くの伏流になってしまった。
岩間を縫いながら右岸に支流を見送ると水流は戻ったがゴーロの岩はますます大きくなりついには直径10mもありそうな巨岩が左右から水を落として行く手を塞いだ。右岸から巻き始めると100m以上ありそうな巨瀑が全貌を現し始めた、八町滝だ。数十mもある幅広のフェースの中にかかる堂々たるもので、落口から20m程加速して吹き出し、ハング帯から一気に落下した瀑水が40m程下で傾斜の緩くなったフェースにたたきつけられて千々に割れて飛沫を谷一杯に広げながら下部40mを縦横無尽に流れ落ちている。ここはいったん谷底に降り、高巻きルートを探しながら右岸のカレ谷に100m程入り稼ぎとった高度を確かめるべく振り返ると彼方に熊野灘がかすんで見える。

この谷は海から10km・海抜100m足らずの往古川出合から水平距離わずか4kmで標高1380mの大台ケ原東方支稜線に一気に駆け上がる、海と山のはざまの急斜面を穿って流れているのだから当然といえばそれまでなのだが、潮騒までが聞こえてきそうな気がする一寸した愉快な眺めで、昨日途絶えていた想像力を再びたくましくしてみる。...この巨瀑を取り巻く大岩壁から崩落し谷を埋めた累々たる巨岩が、大台ケ原の大量の降雨を集めた豊かな流れを吸い込み何事もなかったかのように乾ききっている。
その様を古来この地に住み着き海と山を半ばづつ生活圏とする人々が浜の真砂になぞらえて谷名としたと考えるのは穿ちすぎであろうか。所詮真実は単純で、大きな川(=オオゴウ)の又の川(=マタゴウ→マサゴウ)に過ぎないのかもしれない。しかし今はこの美しい字義を粋な比喩に託した名前だと思い歩を進めたい。

 さて、くだんのカレ谷の5m程の棚を登り左斜面の浅い窪に入っていくとやがて浮石の堆積した幅2〜3mの延々とした狭いルンゼとなり、コルまで抜けると反対側は急斜面のザレルンゼで、20m程下で八町滝落口直上とおぼしき瀞状の流れが見える。ここは小尾根を上流方面に少し辿りノーザイルで谷底まで下降。
いくつかのCS滝を越え、直登不能な15m滝を右岸支流から巻き始めゴルジュ内の滝を三つ程やり過ごして下降すると右奥に30mはありそうな大滝が見えてきた。左岸はブッシュ帯の上に数十m級の岩壁が屹立し、唯一大滝の脇のクラックを空身で20m程は登れそうだが、その先で岩壁に阻まれるまでに落口方面に斜上できるかどうか確信が持てない。左岸は2つのルンゼが水流を10m位の滝で釜に落している。その滝上までなんとか攀じ登って大滝水流左のブッシュ帯に取り付いても壁に阻まれ一筋縄ではいきそうもない。
協議の上、再び右岸に取り付き大高巻きを覚悟する。斜面を登り始めると滝の上部が見え始め、意外に大きく50m級であることが判る。そして上流にさらに大きい滝が姿を現し始めた。
先ほどやり過ごした右岸支流との境界尾根に達し上流方面に向かうと上流の大滝の全貌がガスの晴れ間にあらわになった。落口で二条に分かれた水流が60m程優美に滑り落ちた後再び合わさって、放射状に流れを広げながらさらに40m程流れ落ち、わずかな平坦部を経て下の大滝に続いている。同じ100m級滝として八町滝が荒々しい豪快さを誇れば、こちらの大滝は幽邃さを湛え我々を容易に寄せ付けない威厳があり甲乙つけがたい魅力がある。
尾根上は時折壁が行く手を遮るが、明らかにシカの通り道であり上部に抜けられることを確信して先に先に進むとやがて突然本流側の谷筋が浅くなり、二つの大滝の直上にある二又の左沢の小さな川原に簡単に降り立つことができた。対岸に美しいミツバツツジの咲く、願ってもない良い泊場で、朧月を仰ぎながら最高の夜を満喫した。

 5日、2段6mのきれいなネジレ滝を越えると源流はガスにつつまれた幻想的な平流となり与八高より南方1kmの稜線に消えた。
すぐに反対側の堂倉谷の枝谷を下降して林道に出て3km上流の終点まで歩き、さらに仕事道を辿り堂倉本谷・石楠花谷出合に降りた。
13時半ではあるが、もう大台ケ原に出るまで泊場はないと思われるので、堂倉本谷側に少し入ったところにテントを張り、たちこめるガスと時々降りかかる霧雨にずっぷりと濡れた薪に松之舎さんが執念で火をつけてくれ、長南さんと古川原君が美しい肴を調達してきてくれたので、豪快な焚火のもと、再び美酒に酔うことができた。

 6日、堂倉谷上流部でもっとも短時間で稜線に抜けられると踏んで入った石楠花谷の下流部は意外にしぶいゴルジュ帯で、まず出合からすこし入った所の15m滝は右岸上へ上へと追い上げられ、落口に30mザイル2本一杯の懸垂下降。続く12m滝を左岸から巻き降りると今度は泳がされ、CS滝4mを這い上がる。
上流部は階段状ゴーロとなりどんどん高度を稼ぎ、ガスにつつまれた膝下までの笹原の源流を上がりきると、大台ケ原を取り巻く遊歩道に飛び出した。嘘のようにガスの晴れた反対側の緩斜面を下り、東ノ川源流シオカラ谷の天上のように穏やかな流れに沿って3泊4日の豪快で充実した山旅のゴールとなる駐車場を目指した。(記:越山)

往古・真砂出合付近も水流は強いがほとんど濁りは感じられない

取り付き不能な15mの直瀑

100m以上ありそうな巨瀑が全貌を現し始めた、八町滝だ

落口から20m程加速して吹き出しハング帯から一気に落下する瀑水

2つの大滝を越えると急に谷は穏やかになる

源流はガスにつつまれた幻想的な平流となる

石楠花谷の下流部は意外にしぶいゴルジュ帯でいきなり懸垂下降

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コースタイム
5/3 真砂谷出合(9:30)〜下流部ゴルジュ上泊場(14:30)
5/4 出発(8:30)〜八町滝(11:50)〜50・100m滝上泊場(16:20)
5/5 出発(9:00)〜稜線(10:30)〜大台林道(11:10)〜堂倉本谷・石楠花谷出合泊場(13:30)
5/6 出発(9:30)〜大台ケ原駐車場(14:00)