1998年5月31日(日)
L戸ヶ崎・長南
大菩薩あたりの山々は道志・西丹沢と並んで東京近辺ではわりと好きな山域で、沢からもその山々を捉えてみたいとかねがね思っていたが、クロガネ尾根の東西にとんでもないものが造られるにおよんで興味が少々薄れていた。それでも泉水谷の小室川谷の美しさは幾度も聞いていたので、稜線からの景観はともかく沢を中心に山行を計画したのだが、この沢を毎年のバロメーターとしている戸ヶ崎さんと計画が重なったので、一緒に行くことにした。というよりついて行くことにした。
いつものように前夜出合いで小さな宴を開き、いつものように朝は酒が残っていて歩いていて気持ちが悪い。しかし、今回の我々の酒量はいつもと比べるとかなり少なかったはずなのに、やはり酒が残っていて気持ち悪い。まぁ、最近飲み通しで平常から気分がよくなかったので酒を減らしたんだから、それだけの酒量だけでも酒が残るのは当然と言えば当然なのかもしれない。
釣り師2人をさり気なく追い越して朝靄の中を行く。前を行く戸ヶ崎さんが淵から滝に取り付こうとしている。淵はかなり深いらしく肩まで水に浸かりながら取り付いている。あたりはまだ日もささず薄暗い。寒そうだ。戸ヶ崎さんがなんとかずり上がって行ったので、腹を決めて水に入る。胸まで浸かったところで水中を泳ぐように岩に飛びついたが、足のホールドが全く無い。あるのは右手のクラックに挟まっている拳大の石だけ。なんとかそれと掌のフリクションでずり上がろうとするが、水に浸かった下半身がやけに重たくなかなか上がれない。戸ヶ崎さんがテープを降ろしてくれてなんとかずり上がる。
へつりながら進んで行くと沢はやがて河原状になり沢全体が明るくなる。朝日に新緑が映え、河原の苔の緑も鮮やかで、全体に視界がぼ〜と緑でやわらかだ。やはり奇麗な沢である。S字狭手前から沢に降りれるらしいが、それはもったいない話である。
S字狭で前の5人パーティに追いついた。このクソ寒い中、シャワークライムで一段目に取り付いている。昨日までの雨で水量が多く苦労しているようだ。順番を待っている者は震えながら待っている。先程、濡れて体温を奪われて寒かったので、我々は小さく巻いて懸垂で一段目の滝の落ち口に降りた。S字狭を抜けても上の作業道から降りて来るのか、このあたりまで来ても釣り師が入渓している。
あたりは新緑が目映く、濡れた身体を日だまりで暖めながら行くと、明るい4段のナメ滝に出合う。右をフリクションを効かせて登ろうとするが、フェルトがすり減っていてあまり効かない。そう言えば戸ヶ崎さんの地下足袋も剥がれかかっていたのに、快適に登って行っているなぁと前を見ると、なんとフェルトのたっぷりついたおニューの地下足袋を履いているではないか。あれはきっと新しいシーズンに入ったという証しなのだろう。確かに今日は沢の最盛期のはじまりにふさわしい日である。なんとか最上段にあるシュリンゲに頼りながら登りきる。
最後の二俣のあたりで、ソーメンを戸ヶ崎さんにご馳走になる。やはり意識的にも沢の季節の到来なのだ。
ソーメンでパワーアップしてスピードアップしだすと、沢が行き止まりかと思えるほどの瓦礫で埋まっていた。かなり新しい。瓦礫の山を乗っ越し、2段8mの滝を越えると最後の詰めになる。相変わらず、前を行く戸ヶ崎さんは速い。しかし今日は第2エンジンがかからなかったらしく、徐々にペースが遅くなってきた。遅くなったといっても、600mアップの詰めを1時間程度で上がっているんだから、それでも速い。
針葉樹の疎林を詰め上がると突然視界が開け、大菩薩の稜線の草原にでる。人はパラパラと通るが展望のいい稜線で、青空の下、陽を浴びながらウグイスの鳴き声を聴いてのんびりしていると、まるで別世界に来たようだ。この違いは何なのだろう。周りの音も違うし空気の密度も違う。時間の流れまでもが先程と変ってしまっている。気分がいいのでこの開放感をしばらく味わって、大黒茂沢下降はやめて登山道を下った。(記:長南)
<コースタイム>
7:30出合-9:00十字峡出口-12:00(1250m)-12:30二股13:00-14:30登山道